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育成者権を、権利として売買する際の金額はどのように決定されるか?

 

つまり、育成者権の価値はどのように評価されるのか。
結論から言えば、「売る側の言い値」であろう。たぶん、売りたくないという人も多いのでないかと思う。
公的なところは、まず売ることはないだろうし、民間人でも多数持っているならひとつくらい売るかもしれないが、そういう人は果樹ではそう多くいない(花ならどうなのかな)。
公的なところ同士が、仕事の関係で売り買いすることはあり得るかもしれないが。


同じ知的財産権特許権では、その価値の評価手法が確立されているようだ。ただ、その事例が多数あるわけではない。
http://www.harakenzo.com/jpn/seminar/data/20100115.pdf#search='%E8%82%B2%E6%88%90%E8%80%85%E6%A8%A9+%E5%A3%B2%E8%B2%B7'

注目されることがあるのは、発明の対価訴訟(青色LEDなどの事例)である。
また、育成者権も同様だが、特許権など知的財産を融資の担保に利用する事例がある。ちなみに小室哲哉氏は音楽著作権で10億円を借り、結局返せなかったみたいだ。
M&A(企業買収)の際にも、特許権目当てに会社ごと買い取ることもあるだろう。


特許権の価値評価の手法としては、
(1)コスト法・・・コストを積み上げる方法
(2)インカム法・・・将来の予測事業収益を評価額とみなす方法
(3)マーケット法・・・類似の取引と比較する方法。
(4)経験則法・・・専門家の経験に基づき評価する方法

が挙げられる。
このうち、裁判事例などではインカム法が採用されるようである。

具体的な裁判事例としては、平成18年(ネ)第10008号など。
具体的な特許権の価値は3億3000万円としていているが、損害額は2062万円と、結構下がっちゃうようだ。


育成者権に、インカム法を当てはめて考えたいが、要するに果種協からもらう品種利用料マイナス農水省に払う登録料という意味で、儲かっている品種は多くないだろうということは明らかだ。
だから、インカム法での評価は無意味。
たとえば今絶大な普及をしているシャインマスカットでさえ、おそらく年に数百万程度だろう。30年で1億円に届くかどうか。
農研機構に、たとえば1億円で売ってくださいと言って、売ってくれるはずがない。その程度の価値ではないと鼻でせせら笑われる。

私の品種で言えば、プラスマイナスゼロだろう。
では私の品種の価値はゼロかと言われたら、そんなことはない。何百億積まれても売らないよ。

本日2月4日付日本農業新聞1面。

http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=36189

「“偽”デコポン流通 ネットで詐称相次ぐ 銘柄保護へ警戒強化 日本園芸農協連」

 

コピペできないので、内容をかいつまんで紹介すると、「デコポン」の商標権はJA熊本県果実連が保持し、日園連と取り決めを結んだJAに限って名称の使用を認めているところ、ネット直販などJAを通さない商品が出回り始めた。デコポンは、糖度13以上、酸度1%以下という品質基準に限定されており、基準に満たないものは「不知火」として出荷しているが、ネットなどでは「訳あり品」として低品質のものも出回っているようである。

日園連は、JA以外の商品でデコポンを詐称した場合は、即座に使用の差し止め、損害賠償を求めるとしている。「無断使用を見かけた場合は、文書で通知するなど措置を徹底する。デコポンが一般名称化しないよう、JAと連携し商標維持と管理に努めていきたい」悪質な場合は法的措置を取ることも考えている。

 

 

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商標権を使った農産物新品種のブランド化ということを考えていたが、これはこれで大変な苦労もあるのだと思った。

たとえばいちごの「あまおう」は、福岡県の登録品種(福岡S6号)で福岡県以外に苗が出ていない状態で、JA全農(福岡県本部)が商標権を保持している。

それに対して「不知火」は、登録品種ではなく、苗は誰でも手に入れることができる中で、熊本県果実連が登録商標デコポン」としてブランド化にいち早く取り組んできた。

 

品種が一定以上に普及してしまうと、商標権だけでブランドは守れないということなのかもしれない。「幻の品種」を維持しつつ、商標利用を進めるしかない、ということだろうか。

演習問題

農家X氏が育成者権者A氏に、登録品種aの穂木を譲渡を申し入れた(a品種の苗木は市販されていなかった)。

A氏がこれを快諾した。そして(何本とか何芽とか)数を特定せずに剪定枝数本をX氏に渡した。

ところで、これを知ったY氏がX氏に対して、1本で良いから分けてほしいと頼んだとする。このことをA氏につげることなく、X氏はA氏からもらった剪定枝のうち1本を、Y氏に剪定枝を渡した。

X氏からY氏への譲渡は、種苗法に違反するか?

 

 

回答案

種苗法には違反しない。

A氏からX氏に譲渡された穂木の本数と、X氏からY氏へ再譲渡されたのちにX氏の手元に残る穂木の数プラスY氏に渡った穂木の数は、変わらない。

苗木ないし穂木の数が変わらない形での再譲渡は、育成者権者の許諾なしに行える。

 

解説

苗木が広く市販されている場合は別として、育成者権者が農家から依頼を受けて、登録品種の枝を譲渡することはよくあることだろうと思う。

剪定して余っているのだから、適当に持って行って良いよと言ってしまいそうなことである。譲渡した相手が知り合いであったり、熱心な農家であれば、断りきれないということもあるだろう。

譲渡した相手(X氏)を信頼して渡したのであって、他には広めてくれないでほしいという思いがあったとしても、そうしたことまではいちいち言わないかもしれない。

しかし、譲渡した相手X氏がさらに譲渡を求められた(Y氏)場合、育成者権者の思いとは別に、最初に譲渡を受けた範囲であればX氏の思うままに、登録品種を広めてしまうことができる。

結局、登録品種を必要以上に広めたくないのであれば、譲渡する芽数を明記し、X氏が再譲渡を禁止することを明確かつ厳密に記載した契約を取り交わしてから、譲渡するべきだということになる。

4

羽田圭介という作家が、芥川賞を取って、もらった賞金は100万円。

印税は2000万円だそうだ。

 

印税で生活している作家は日本に約30人ということを聞いたことがある。

芥川賞を取ったような作品でも2000万円にしかならないということだ。

3

花農家に聞いた話。

 

登録品種の苗の増殖は、契約により禁止されているとのこと(実際には、自家増殖の例外の省令指定品目だから禁止なのだろうけど)。

ただし、例えば100本苗を買って10本枯れた場合、10本分を株分けなどで増やすのは構わない(黙認されている)とのこと。数が変わらなければ良い、ということらしい。

数が変わらなければ、というのは、どこかで聞いた理屈だ。